根本 知 Nemoto Satoshi オフィシャルサイト - 書家 / ねもとさとし

「桐壺」

いづれの御時にか女御更衣あまたさぶらひ給ひけるなかに
いとやむごとなき際にはあらぬがすぐれて時めき給ふありけり

『源氏物語』桐壺の冒頭より

「尋ねゆく幻もがなつてにても魂(たま)の在処(ありか)をそこと知るべく」

(大意)更衣の魂を尋ねゆく幻術士(まぼろし)がほしいものだなぁ。せめて人伝てにでもその魂のありかをそこと知ることができるように。

後宮の数ある女性の中で、桐壺帝の愛を一身に集めていたのが光源氏の生母、桐壺更衣。帝の寵愛が深ければ深いほど後宮の嫉妬は増していく。そのために心を病み、そして死するのだった。「桐壺」の巻に登場するこの歌は、白楽天「長恨歌」の影響が著しい。まさに玄宗皇帝と楊貴妃の悲恋に重ねるかのような歌である。